剣の星のクーパ・ルー

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六 「ねぇ、名前を教えてよ。鉄巨人じゃ呼びにくい」 「もう俺はヒトじゃない。名前なんて忘れたさ」  ぞんざいに手を振って、風の丘の鉄巨人はクーパ・ルーを追い払おうとした。   クーパ・ルーはむくれた顔をして、けれど諦めずに鉄巨人の周りをぐるぐると歩き回る。鉄巨人は呆れつつも取り合わず、仕事に集中しようとした。大岩に腰掛けて、磨耗し角の削れたハンドルを右手に掴むと、大きな風車を無心に回す。送り出す風は、水晶の森へと。 「あ、いつもありがとうございます」  仕事を始めた鉄巨人に、クーパ・ルーは姿勢を正して深々と頭を下げた。調子の良い奴だと思いかけて、だが少年の真摯な表情に考えを改める。  世界が、名も知らぬ誰かに護られていること。クーパ・ルーの真剣な顔は、それをわきまえている者のそれだった。  「……《ヨドミ》はどこにでも現れるが、《剣》の墓所である水晶の森に出現する《ヨドミ》は特別に厄介だ。水晶に寄生し、生前の《剣》が蓄えていた知と力を取り込んでしまうからな。だから、風の絶えた今の時代、こうして誰かが森へ清めの風を送り続けなければならない」  凪の時代が始まった先の大戦で、ヒトはそれを嫌というほど思い知らされた。水の流れが途絶え、風の消えた森に《ヨドミ》はあふれた。多くの剣士が倒れ、多くの《剣》が水晶化した。そしてその水晶に《ヨドミ》が巣食う悪循環に、森は膨れ上がり周辺にあった主要都市を飲み込んでいった。  今は森から遠く離れた辺境の都市国家にのみ、ヒトの生存圏が残されている。森の周辺に住むのは番人たちか、成人の儀に訪れた子どもたちぐらいだ。  鉄の身体が、悲鳴を上げていた。最近はフレームの節々が金属疲労を起こし、こんな単純作業ですら気を張っていないとままならない。電圧も安定せず、夜に寝落ちてしまうことが増えた。その度に《ヨドミ》が湧き出し、戦死者が出る。鉄巨人に非があるわけでもないし、誰も責めたりはしない。それでも、やりきれない。 「だが、それもいつまで続けられるのか……」  老いた。心も、身体も。機械の身体に永遠などない。まともな技術者も居ないこの星では、特に。  遺失技術を執念だけで解読し、独力で自身の身体を巨大な機械装置へと置換した。今にして思えば、あの狂おしいほどの情熱は何だったのだろうか。
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