剣の星のクーパ・ルー

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「この《剣》、折れてる……それに……」  クーパ・ルーの哀しげな声に、鉄巨人は己の右肩を見た。  右肩の装甲に取り付けられた、砕けて根元だけになった鞘。そこに吊るされた、大きな《剣》。先端は折れ、刀身は半ば水晶化していた。大戦の傷痕と言えばそれまでだが、感受性の強い子どもとってこの死にかけた《剣》の姿は、物悲し過ぎる光景なのだろう。  今は折れてしまった、鉄巨人の《剣》。それを掴むために得た、大きな機械仕掛けの腕と脚。  だが夢の結晶だった鋼の巨体は、大戦を生き延びるため分厚い装甲に覆われた。少年だった頃の面影を残した金属の顔は、鉄の仮面に隠された。 「大き過ぎる力は、それに見合う責任を負わされるのさ。チビ、おまえの《剣》もそうだというのなら……捨てちまえ。こんな身体に成り果ててしまう前に……」  《剣》を掴み成し遂げたかった想い。  おぼろになった記憶、美しい少女の、閉じられた瞳。  触れたいと、抱き締めたいと願い望んだ胸の熱さ。  今は、もう。  「ロボ・リロン」  忘れたはずの記憶を、急にくすぐられて。鉄巨人は驚き戸惑った。揺れる巨体が起こした振動に、驚いた鳥たちが一斉に飛び立った。  「その名を、どこで知った?!」 「盾に、名前が彫ってあるよ」 「誰が、いつの間に?!」  左の肩装甲から伸びる補助腕に接続された、鉄巨人の盾。その縁に、ナイフで彫られたらしい小さな文字が、忘れかけた古い名が刻まれていた。 「ロボ・リロン。ロボ・リロン。変な名前」  唄うように名を呼ぶクーパ・ルーを、鉄巨人は空いた左手で捕まえ、摘み上げた。 「このチビ、アホ毛を引っこ抜くぞ?!」  持ち上げて、鉄巨人はクーパ・ルーと視線の高さが同じになってしまった事に気付いた。少年の瞳が、割れた鉄仮面の下に覗く、ヒトを模した金属の顔を見ていることに気付いた。 「でも、呼び易いよ。ロボ。ロボ!」  少年の迷いの無い瞳が辛くて、鉄巨人は顔を背けた。仮面の影に表情を隠す。 「言っただろう。今のオレは、ヒトじゃぁない。魔法少女と同じだ。世界を維持するための、装置なんだ」 「でも、その大きな手で貴方は、自分の《剣》を掴んだんでしょう?」
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