剣の星のクーパ・ルー

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「森が……!」 「《ヨドミ》に……?!」  それは、巨大な、とてつもなく巨大な人型の《ヨドミ》だった。ロボ・リロンよりも遙かに大きなそれは、もはや山脈と比するほどの質量をもってふたりの前に立ちはだかった。  その体内に、魔法少女を捕らえて。 「そんな……!」  魔法少女の苦しげな顔に、クーパ・ルーの心が乱れた。ふたりの連係が一瞬、途切れた。  その一瞬を、飛来した《既死の剣》が貫いた。  ロボ・リロンは己の胸へ視線をおとした。深々と、《既死の剣》が突き刺さっていた。もとより空洞であったそこへの攻撃は、ロボ・リロンにとっては致命傷には成り得ない。だが。 「クーパ・ルー!?」  己の胸の中に、クーパ・ルーの血が広がるのを、ロボ・リロンは恐怖をもって知覚した。  《ヨドミ》が笑っていた。顔の無い顔で、笑っていた。  《既死の剣》はロボ・リロンの体内で無数の刃へと枝分かれして、ロボの中にあった柔らかいモノをずたずたに斬り刻んでいた。  《剣》が重い。クーパ・ルーの《剣》が。本来の持ち主を喪ってしまえば、ロボ・リロンにそれを操る力は無い。手の中から、《剣》は零れ落ちていく。大切な、大切な何かと共に。 「ロボ・リロン!」  よく通る声は、女剣士のものだった。そこに込められた感情を理解して、だがロボ・リロンは拒絶する。 「みんなは下がれ」 「しかし!」 「下がれと言った!」  一瞬の沈黙は、だが永遠に等しかった。  「……総員、退くぞ。我らでは、止められん……ッ!」  血を吐くような無念を残し、女剣士の気配が消えた。全ての剣士を引き連れて。 「すまねぇ、ありがとう……」  別れの言葉は、届いたのか否か。小さく呟いた少年の声は、森のざわめきに儚く掻き消されてゆく。 『コチラヘ来イ。無力ニ、理不尽ニ、絶望ニ、屈シテ……我ラト同ジモノニ成レ……ッ!!』  《ヨドミ》が、その手を伸ばす。ロボ・リロンの絶望を欲し、望み、祈り、願って。 「……うるせぇ」  胸に刺さった《既死の剣》を、ロボ・リロンは左手で鷲掴み、握り潰す。  そして、自らの顔を覆う鉄仮面を力任せに引き剥がした。  「今は泣くのに忙しい」  その涙は、熱く燃えていた。
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