剣の星のクーパ・ルー

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二  この星で生まれた者は誰もが皆、一振りの剣を持つ。《ヨドミ》を払うための剣を。  風が吹く。  水晶の森に、篝火が燃える。  星空の下、夜闇の底。  揺れる炎に照らされて、一人の女剣士と四人の子どもが時を待つ。  「───我らは《剣》の友。《剣》の僕。《剣》の心」  朗々と、厳かに、豊かな声を響かせて。女剣士は腰に帯びた《剣》へと触れた。   子どもたちが息を飲み見守る中、見上げた満天の星を瞳に映し、音も無く《剣》を引き抜いていく。鏡のように艶やかな銀の刀身に夜空は宿り、その中をいくつもの星が流れていく。 「《剣》は我らを生み、愛し、そして心を求める」  女剣士の左腕に刻まれた幾何学的な紋様が、虹色の輝きを帯びた。《剣》の刀身にも同じ紋様が浮かび上がり、呼応し、そして瞬く。 「我らは《剣》と共に生き、愛され、そして心を捧げる」  掲げた切先で、女剣士は空に流れた星の尾をなぞる。剣と星が互いに輝く光景は、古馴染みとの会話のように穏やかで、そして楽しげだった。 「来たれ、時と空を超えた旅の果てに。《剣》と我ら、出逢い、寄り添い、そうしてヒトと成る」  空を辿った切先は緩やかに弧を描き、そして大地を指し示す。 「この星で───」  唄い終えた女剣士は《剣》持つ手を崩さぬままに、子どもたちへ微笑みを向けた。師の厳しさと、母の優しさを湛えたまなざしで。 「今宵、剣の降る夜に。子どもらよ、良き運命に出逢えんことを」  行儀良く儀式を見守っていた子どもたちは、師のその言葉に感極まって歓声を上げた。師が初めて見せてくれた本物の《剣》の姿に、興奮していた。 「先生の《剣》、きれい……!」 「おれの《剣》はどんなんだろ! わくわくするぜ!」  大人の背中に未来の自分を重ね視て、子どもらの胸は高鳴り躍る。  この星では、十歳を過ぎた子どもは皆、水晶樹の森へと旅立つ。創星の魔法少女が眠るこの森で、星の海より降り来る《剣》を授かるために。己の半身となる《剣》と出逢い、自身を守り誰かを救う力を得て、子どもたちは初めて成人と認められるのだ。  今夜は、そういう夜だった。
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