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三
魔法少女が眠る、水晶樹の頂きで。
「どっせぇええいッ!」
クーパ・ルーは手にした木刀を全力で水晶樹へと叩き付けた。その太刀筋は鋭く重く、少年の天性を感じさせた。
だが、永遠とも思える時を越えてきた大樹には傷一つ付けることもできず、クーパ・ルーは手首を強かに痛めることとなった。
「痛っぅうううううッ?!」
眼の端に涙を浮かべ、手首を抱えてうずくまる。
水晶の中の少女は、目覚める様子も無い。
己の無力を文字通り痛感し、クーパ・ルーはすがるように背後の気配へと振り返った。
「……先生、この子をここから出してあげたいんだ」
「遅かったか……」
師匠である女剣士は頭を抱えていた。呆れたような、哀れむような、けれど予感をしていたような、複雑で不思議な表情をクーパ・ルーに見せる。
「クーパ・ルー。君はその瞳に何を映している?」
叱られると思った。けれど聴こえたのは、優しい声。
女剣士を見上げながら、しかし少年の瞳からは今も魔法少女の面影が離れない。
「あの女の子を見たときから、ずっとココが止まらないんだ」
クーパ・ルーは自分の胸に小さな手のひらを押し当てた。女剣士の静かな視線に、真っ直ぐ応える。
「ああ、わかっているさクーパ・ルー。《剣》に捧げるべき君の心が、今はどこにあるのか。《創星の魔法少女》。水晶樹で覆われたこの森に、たった一輪咲いた華。彼女に魅入られた子どもは、君が初めてじゃない」
ふたりの視線は自然、水晶樹の頂きへと向かう。そこに封じ込められた、魔法少女へと。ふわり、風の中に浮かび、そしてそのまま凍りついたような幻想的な姿。夢見るような微笑みのまま、けれど彼女の瞳が開くことはない。
「先生、あの子をここから出してあげたい」
「出して、どうする?」
「話がしたいんだ。色んなことを訊いてみたい。好きな食べ物、好きな色、好きな唄。この子のことを知りたい。いっぱい、いっぱい! そう思うだけで、胸の中がわくわく踊るんだ!」
女剣士の両手が、クーパ・ルーの肩へ触れた。諭すような、それでいてどこか苦しげな双眸が、少年に問う。
「……なぜ、彼女なのだ」
「いけないことなの?」
「魔法少女はこの惑星の心臓だ。彼女を失えばこの星の循環は止まり、《ヨドミ》に呑まれて腐り落ちる。世界の終わりさ」
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