桜にまつわるある話

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昔からある噂だ、小説の題材にもなった。それだけ、毎年薄闇の中に仄白く浮かび上がる桜にはどこか妖しげな魅力があるのだろう。桜があんなに美しいのは、人の精気を吸っているからだと思わせるほど毎年溢れんばかりの花を咲かせる。 「桜ってさ、染めようとすると花だけじゃ染められないんだって。あのピンク色は枝とかの幹も使わなきゃいけないんだってさ。」 「へー。じゃあ、幹とか全体であの色になろうとしてるんだね。綺麗だよね、ストールとか」 通り過ぎた高校生の会話が耳に入った。 成る程、幹からならば通っている道管や維管束から吸われるわけだから仮に根元に埋めたとしても栄養分くらいにはなるだろう。前に授業で習った知識を引っ張りだして思う。そういえば、花びらを色水に漬けたらじんわりと赤く染まってたっけ。 春の夜はどこか蠱惑的だ。 実際に匂いは感じないとしても、いっせいに咲き出す桜を始め、木蓮やタンポポの香りがする気がしてどこか浮足立ってしまう。 あの日も、そんな春の夜だった。
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