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「不気味な奴……。ファンシーを食うファンシー? 有り得ないでしょ」
悪態をつきながら、戦闘態勢に入るノベンバ。テディベアは何の武器も持たず、拳一つで飛び掛かる。
「ハ、そんなへなちょこパンチで」
刹那、テディベアは右腕から無骨な義手を生やし、その鋭利な爪で切りかかった。
「なっ」
咄嗟に躱す。しかし完全には避けきれず、腕部を切り裂かれる。
「ウソ、ちょっとかすっただけで……」
パイロットのノベンバも同様に、左二の腕の一部を削りとられていた。テディベアは削り取ったグモルクの肉片を口に放り込み、再び血走った目でグモルクを見据える
「ケダモノ……」
テディベアは金切り声を上げ、再び襲い掛かる。
「一度食らった手は、二度も食わない!」
鋭利な爪が、グモルクの頭部に食い込む。
「かかった」
それは残像だった。背後からの奇襲。その鋭い爪によってテディベアは切り裂かれ、綿とオイルがグロテスクに宙を舞った、かに見えた。
「えっ」
それもまた、残像だった。残像が霧のように掻き消えた瞬間、本体はグモルクの真上から痛烈な一撃を繰り出す。機体はひしゃげ、地面にめり込む。
「まさか、私のスキルを……」
最期の言葉を遺し、ノベンバはひしゃげたコクピットの中で絶命する。勝敗は決した。しかしテディベアは、真子は依然として捕食を止めない。バラバラになったグモルクのパーツを、黙々と食べ続ける。
真子は虚ろな目で操縦桿を動かしていた。満たされない、満たされたい、その一心で。やがてブヨブヨした何かが歯に当たり、苦手なトマトを咀嚼した時のような不快感と生温かい汁気が口内に満ちた。それでも噛み切ろうとする。堅い感触と共に、鈍い音がした。
すぐに吐き出す。すると正面モニターに、吐き出した残骸が映し出された。
もう戻らない、真っ赤な命の破片。
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