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一度味を知った獣は、飢えに純粋だ。
少女の夢とグロテスクな現実を咀嚼し、吐き出したかのような部屋。フェミニンな家具や雑貨類を侵食するかのように、酒の空き缶やタバコの吸い殻、使用済みのティッシュが散乱する。カーテンは閉め切られ、電燈の光が薄ぼんやりと輝いている。
その中を素早く駆け回る二つの影。二頭身の芝犬と黒猫のぬいぐるみが、鋭い鉤爪で死闘を繰り広げていた。それらは単なるぬいぐるみでは無い。「ファンシー」という名の武装人形、ぬいぐるみ型のロボットだった。
「くそっ!」
猫型ファンシーの体内で、セーラー服の少女美依が必死の形相で操縦桿を握っている。対する犬型ファンシーのパイロット、灰色のローブの少女ノベンバは余裕綽々で彼女を追い詰める。
「ほらほらミイちゃん、この前みたいに反撃しなよ。死んじゃうよ~」
犬型ファンシー、グモルクは素早い動きで美依を翻弄する。やっとの思いで攻撃を当てるがそれは残像で、即座に本体の鋭い蹴りが美依を襲う。
「あああっ!」
美依の機体は彼方に吹っ飛ばされ、壁に激突する。出力低下を知らせるアラートが鳴り響く。
「動けクロ助! 動け!」
美依は操縦桿を激しく前後させ、復帰を試みる。しかし機体は動かない。その間に、グモルクがじりじりと距離を詰める。
「残念。ま、猫が犬に敵うはずないか」
グモルクはゆっくりと口を開け、その鋭い牙でクロ助の左腕に噛み付いた。激痛が美依を襲う。
「がああああっ!」
「痛い? そりゃ痛いよねぇ。ファンシーとパイロットは一心同体なんだから。でもまだ序の口」
グモルクの牙は更に食い込み、クロ助の左腕を噛み千切った。
「!」
「犬に噛まれた事はあっても、噛みちぎられたことはないよねぇ。初体験じゃん、おめでと」
それと同時に、美依は左腕の感覚を失った。「ボトリ」と鈍い音が響く。断面から血が噴き出し、真っ赤なコクピットを更に赤く染める。呼吸が速くなり、徐々に痛みが脳に達する。その瞬間、美依は気を失った。
「あれ、気絶しちゃった? じゃあもっかい覚ましてやんないと」
噛みちぎった腕を放り投げ、グモルクは残った右腕にかぶりつく。
「昔やったな~、ザトウグモだっけ? あの足の細長い奴。あれの手足全部ちぎって遊んだの、思い出すな~」
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