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「……突然だったな」
「うん」
自転車を押しながら歩く彼と私はゆっくりと並走しながらそう呟き合った。それは、あまりにも突然告げられた事に頭がついていかず、放心状態という感じだった。
(しかも、あの容姿で『男性』だなんて)
あの人は、私と彼が会った当時はショートヘアだった。が、そのまま伸ばしていった結果。
あのような『女性』に見える容姿になってしまったのだと説明した。言葉遣いについては、自分の母を参考にした結果らしい。つまり、あの人も片親で、その人は『日本人』だったという事だ。
「つーか、俺と話す時よりあの人と話していた方が饒舌だったじゃねぇか」
「えっ、そうだった?」
「自覚なしかよ」
思わず知らないふりをした私に、彼は吐き捨てる様に言った。
「なんつーか、やけるな」
「やける?」
「なっ、違う! あっ、あれだよ。えーっと」
独り言で言ったつもりだったのだろう。しかし、すぐ隣にいた私に聞こえてしまい、彼は突然慌てだした。
「……焼き? 」
「そっ、そう! 何とか焼きの……って、は?」
「いや、さっきもらったチョコレートが2層に分かれていて、1つはあの時にもらった『チョコレート』で、もう1つが……『焼きチョコ』って箱に書いてあるのよ」
「えっ、あっへぇ。チョコレートにも色々あるんだな」
私たちが帰る前に、あの人もらったチョコレートの箱を見ていたのだが、すぐに何か紙の存在に気づいた彼は、じっくりと最初は読んでいた。
が、すぐに顔を真っ赤にし、その紙を素早く自分のポケットの中へとしまった。
「………」
(あんたは誤魔化したつもりかも知れないけど……。その『やき』の意味が分からないほど私も鈍感じゃないわよ?)
その紙に何が書いてあったかは、分からない。しかし、彼の反応を横目で見ながら私は、小さく笑いながら心の中で呟いた――。
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