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「話によるとその人、去年の冬に転入してきたばっかなんだって。で、いきなり三学期の期末試験からそれまで首位争いしてたメンバーを一蹴して単独トップに躍り出てしまったから、さあ大変よ。花山滝川の威信をかけて、元トップ層による熾烈な首位争いが繰り広げられたんだけど、進級して初の定期試験でまたもやみんなして撃沈させられたってわけ」
「だからあんなに、職員室前が混雑してたのか」
麻友は大きく頷く。その混雑をかき分けてまで順位表を見に行く気力を、彼は素直に凄いと思う。
「名前は?」
「え?」
「その、三年の」
「ああ」
麻友の黒目が、つと天井を向いた。
「何だっけ、滝...何とか...」
相変わらずマイペースだ。黎はちいさく吹き出した。
麻友とは幼稚園からの親友で、家も近い。とは言ってもこの辺りは昔ながらの風景広がる田園地帯で、距離的には、それなりに、あるにはある。それでも一緒に育った親友には変わりなかった。
同じ中学校を出て、春からめでたく無事にこの田舎の公立進学校へ入学、およそ二ヶ月が経った。すこし高校生らしく変わろうかと思うのも思うだけで、麻友は新しい人間関係とシステムに刺激され日々気ままに走り回っているし、黎は黎で慎ましく堅実な学生生活をゆるりと掴み始めて、結局中学校の延長みたいだ。環境が変わって人間すぐに変わるものじゃなく、むしろ生まれもった性格が強くなるくらいのもの。黎としては、そう納得している。
「何某先輩のこと知らないんなら、黎、あの伝説も知らないんじゃないの?」
麻友がにやにやともったいぶって彼を覗きこむ。
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