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声援も眼差しさえも窓越しで
響くホイッスル夏の残像――
……げっ、レベル高すぎでしょ!
試験監督の先生の合図と共に、問題用紙を開いた途端、今まで見たこともない異常に長い英文に怯んだ。その上、意味不明な英単語も満載。
……しょうがない、今回の模試は捨てよう。
開始一秒で戦意喪失、敗北宣言。
とりあえず、記号問題だけはカンで埋めようと、ヘッドにテディベアがついたシャーペンを走らせる。記述問題が絶望的なら、正答率25%の記号問題を捨てるワケにはいかない。
チラっと、窓の向こうに目を遣った。
……『SHION』が一点入れたら、問3の答えはアにしよう。
十五歳の夏休み、青春ストライクゾーンど真ん中。
……といえど、名門私立中学に通う三年生らしく、教室で全国模試を受けていた。
窓際の後ろから二番目の席で、試験問題に集中しようと試みながらも時折、視線は窓の向こうへ、自然とスライドしてしまう。英文の設問をすり抜け、グラウンドへと向かう意識を自制できない。
二階の校舎から見下ろすグラウンドでは、サッカーの試合が行われている。進学科の教室から見下ろす光景としては、珍しくて新鮮だった。『SHION』を背負った紫色のユニホームを着て、ボールを追いかける部員たちは揃いも揃って見慣れない顔ぶれ。
それもそのはず。彼らは皆、フェンス越しの、スポーツ科の生徒たちだから。
この紫苑学院は音楽科・スポーツ科・進学科の三つの科から成る中高一貫校だ。
各科は敷地もフェンスで隔てられ、校門もそれぞれ別々。同じ学校といえど、まるで接点がないので、科が違えば他校のようなものだ。全科が揃うのは、入学式と卒業式だけ。各科の行き来が公的に許され、交流がもたれる機会は、文化祭や体育祭ぐらい。
原則として、他科への出入りは禁止されている。但し、特例を除いて。
ここ、進学科のグラウンドや体育館や格技場は、土日や夏休みなどの長期休暇中に限り、スポーツ科の生徒たちに貸し出している。放課後は塾通いに勤しむ進学科の生徒たちは、帰宅部が主流だから。
記号問題を埋めていると、クーラーを効かせて締め切った窓越しに、どっと歓声が響いた。反射的に顔を上げ、グラウンドを見下ろした。何人かの生徒も反応して、窓の外へ視線を向けた。
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