第一章 海に沈む月

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 小学校二年になった春、母が突然死した。母は元々、心臓が弱かったらしいが、親に反対されて駆け落ち同然で結婚してから、無理ばかりしていたらしい。  そして、母を失った父は、酒に溺れるようになり、アルコール依存症で入退院を繰り返すようになった。  木造平屋一階建ての、金城(かねしろ)駅に止まる電車は普通列車だけで、一時間に一本しかない。快速や特急は、普通列車よりも走っているので、隣の新金城駅に降りればいいのだが、家からは少し遠いのだ。  木造でボロボロの駅舎を出ると。前には港が広がっている。その港から灯台に向かって登り、金城展望台方面に向かった先に家がある。しかし、ちゃんとした道でゆくと、かなり遠回りになってしまう。そこで、駅から五百メートル程離れた場所の山を、一気に駆け上がり自宅へと帰っていた。 「お兄ちゃん、私も一緒に行くね」  妹も同じ電車に乗っていたらしく、後ろから声を掛けてきた。 「そうだね……」  俺は妹と、細い山道を駆け上がった。  俺は、夏川 夜空(なつかわ よぞら)、今年、高校二年生になった。妹は、夏川 花奈(なつかわ はな)、春から同じ高校に通うようになった。 「お兄ちゃん、何となくだけど、ここも道になってきたね」  何もない山の斜面なのだが、毎日、上り下りをしているせいなのか、薄っすらと道のようなものがある。地面が踏み固められて、歩き易くなってきた気がする。 「毎日、使用しているからね。千里の道も一歩からだ」 「何それ……」  花奈は、兄の俺から見ても美少女で、黒髪に大きな黒い瞳で、細い手足をしていた。目が大きい割には、口や鼻が小さく、清楚な美人という感じがしている。花奈は可愛いタイプではないが、美人とは誰もが言う。  人のいない山道を、花奈に歩かせるのは怖いのだが、それは、港からの細い坂道でも大して変わらない。この金城駅を使うのならば、俺が花奈の登下校の時間に合わせるくらいしか、方法はない。 「花奈、俺はともかく、花奈は新金城駅からバスでもいいよ」  新金城駅は快速列車も止まるし、観光地もあるのでバスも出ている。 「何を言っているの。ウチにそんなお金はないでしょ。それに、お兄ちゃんも、危険でしょ」  俺は男なので、花奈とは状況が違うだろう。
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