第二十三章 夜空の昏い森

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 俺が安心して取り出そうすると、もう二本の手が見えてしまい、驚いて放ってしまいそうになった。桂樹と森野は中身を予測していたので驚かずにいて、俺が落とさないように手を添えていた。  ドーム型のガラスの中には、ミイラ化された手首から先の手が入り、ブーケの中にあった。  左手の薬指に指輪がはまり、両手で小さなケースを持っている。小さなケースの中には、指輪が入っていた。 「……私が、奨介さんにアドバイスしました。お兄ちゃんは、私が成人したならば、きっと、奨介さんのプロポーズを受けるって……」  プロポーズと言われても、男同士でどうにもならないだろう。ガラスケースの中なので指輪をはめてみるということもできない。指輪ケースには、『夜空へ 永遠の愛を誓います 奨介』と手書きのメッセージが入っていた。 「俺と奨介は、プラトニックで止まったままだけど、そうか……奨介も永遠だったのか……」  奨介に触れたかった。でも、ガラスケースの中の手は、俺にプロポーズしたまま永遠に止まっていた。 「……こんなことなら、さっさと寝てしまえば良かった」  そこで、佑都がケーキを吹き出していた。 「まあ、そんな夜空の奥ゆかしい?というよりも、何かきっかけがないと進めない所も、奨介は知っていたよね……」  森野は、大人の余裕を見せていた。  ミイラ化された手には、小指が一本足りない。それは、先に貰った指輪に入っていた。俺は、指輪も持ってくると、ブーケを見た。約束の指と、プロポーズの手が揃った。 「さてと、次は、利基への箱ね」 「え、俺宛てもあるの?」  底に、森野宛の封筒が入っていて、そこには土地や建物の権利や、財産の関係の書類が入っていた。逸美は、全て森野の名義に書き換えてあり、処理が終了していた。 「え……家は、画家に賃貸契約しているので、その収入で固定資産などを支払いなさい……そこまでしてあるのか」  封筒の下には、絵があって、森野が屋根裏から見ていた景色があった。 「母さんの絵だ……」  逸美は、それぞれに、大切なものを託しているようだ。では、このプロポーズを演出しているのも、逸美なのであろう。部屋に飾れない気がするが、一生、持っていようと思う。 「指輪はプラチナかな?」 「色からすると、そうみたいだ。後ろに文字が入っているみたいだ……」
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