第二十三章 夜空の昏い森

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 幾らするのか分からないが、もしかして裏稼業で稼いだ金だろうか。少し心配していると、箱の底に又、メモがあった。 『これは真面目にバイトをして貯めた金で買ったので、心配ありません』  真面目なバイトなど、奨介がしていたなど知らなかった。では、裏稼業で稼いだ金は全部使い切ったのだろうか。メモの下には、まだ何かあり、隙間に手を入れてみると、カードが入っていた。 『このカードの中身は、夜空と森野が持っていてください。これは裏稼業で得た収入で購入したもので、夜空の名義で借りた貸金庫にあります』  購入したとなると、物なのであろうか。こうなってくると、奨介は自分の身に何かあると、危惧していたようにも思える。 「……貸金庫……」  もう手は届いたので、秘密は無いのかと思っていた。 「中身を見て来るか……?」 「そうだね」  銀行の名前を見ると、俺の家から近い。金城ではないので、そこまで奨介が恐れていた何かがあるということだ。 『追伸、関わった犯罪のリストも一緒に置いておきます。これは自由に処分してください』  箱の中身を確認したので、今度はゆっくりと花奈のケーキと、佑都のサンドイッチを食べ始める。  奨介は、バイトをして俺に指輪を購入していた。俺は、奨介に何が返せたであろうか。奨介の手に触れたくなり、ガラスに手を当てていると、ガラスが温まったのか温度を持っていた。その温度が奨介のようで、俺は涙が落ちていた。  綺麗なままの恋であったので、こんなにも響くのだろうか。でも、付き合いが長くて、きっと生まれた時から知っていたのだ。 「…………奨介」  いや、生れる前から知っていたのだ。 「奨介、俺達、本当にさっさと寝てしまえば良かったな。俺も奨介も、そんなに貞操があるわけでもなかったしね……女の子には適当に手を出していたものね、お互い……」  壊れるのが怖かったというよりも、お互いに大切にし過ぎたのだ。  ガラスに花奈も手を添えると、同じように泣いていた。花奈には、奨介がどのように映っていたのかは分からない。でも、奨介は俺以上に、花奈には優しかった。 「奨介さんは、私にも優しくて……この貸金庫が、こっちにあるので分かるように、何度か見に来ていました」  そこで奨介は、俺達が桂樹に殴られて虐待されているのを見てしまい、桂樹を殺しそうになったらしい。 「……殺す?」  それは、俺も知らなかった。
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