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奨介が借りていたのは、銀行の貸金庫ではなく、業者が運営しているものであった。奨介は、自分に何かあった場合は、俺に権利を引き継ぐと契約していて、俺の名義に切り替わっていた。しかも、奨介は二十年分の使用料を前払いしていた。
「貸していたのは、このボックスで、中に入れてはいけないものは、お骨や腐るもの、生ものなんかね……二十四時間体制で警備しているから、人に言えない貴重品のお預かりが多いね」
随分と怪しい業者に頼んだものだ。でも、その代わりに、誰にもバレずに済んだ。
案内された部屋は、金庫の中のようで、長居はできないらしい。奨介が借りていた金庫を開けると、中には書類が入っていた。
「土地と家に関する書類だ……」
奨介から届いた手の、実が赤かった部分は、奨介が買い上げていたのだ。
「土地の景観を守るため?奨介は引っ越して売りに出された家を買い取っていた……」
このことは、協力した美佐が知っている筈だ。
「あの、この契約では、俺以外でこの金庫を開けられる人はいるのですか?」
「いないよ」
俺は貸し金庫を出ると、店の外に出た。この店は、表向きはリサイクルショップで、裏稼業で貸金庫を持っていた。貸金庫の部分は、隠れていて、表からは分からない。
リサイクルショップなので、物を持って入っても、持って出ても怪しまれない。しかも、この店は貴金属のリサイクルも扱っているので、警備も万全であった。
俺は、自動販売機で水を購入すると、縁石に座って考えてしまった。
ここは、あきらかに裏稼業の者が、品物を預けていた。奨介は、ここに隠したのだ。
俺の前に桂樹がやって来ると、リサイクルショップで買ったらしい、小型の箱を持っていた。オルゴールのようで、横にハンドルが付いている。細かい細工があって、高価そうに見えた。桂樹が箱の蓋を開くと、アンティークの指輪がペアで入っていた。
「もしも、貸金庫の事を聞かれたら、これが入っていたと言うこと。この指輪は偽物で、箱は二重底になっている。底には、奨介君が所有している土地、建物の権利書のコピーが入っている。健介さんは、自分に権利があるから、本物がどこにあるのか聞いてくる筈だ。それと、この箱には発信機があって、場所の特定ができる」
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