第二十四章 夜空の昏い森 二

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 二重、三重の罠であったが、その間に美佐が動き始めるらしい。 「美佐さんに連絡している。美佐さんは健介さんと離婚するための協議中だった。主に財産でモメていて、美佐さんは、会社の権利を健介さんに全部譲るので、住んでいた家や土地が欲しいと言っている」  現金は半分で承諾しているが、健介は家の権利を譲る事を拒否していた。健介としては、現金類は美佐でいいので、土地は譲らないという趣旨らしい。 「……リゾートホテルなのか……」  健介は、あの土地をリゾートホテルにしようとしているのか。 「奨介の所有となると、誰の権利になるのだろ……」  そこで、美雪の言う奨介の子供が有効になり、浩介の所有になるらしい。 「美佐さんは浩介を奨介さんの子供とは認知させないつもりで、かつ、土地や家屋は知場さん経由で花奈が買い取ろうとしている」 「え、花奈?」  花奈はモデルで稼いだ金を全て知場に渡し、母の愛した土地を守って欲しいとお願いしていた。知場は花奈の願いを聞き入れ、美佐と交渉していた。 「奨介さんは、生前に自分に何かあったら、夜空と花奈に渡したいものがあると、弁護士を立てて遺言していた。それでゆくと、花奈は買い取らなくても良かったのだけれど、健介さんへの牽制だね」  花奈は俺が、周囲が見えていないと言った。それは本当であった。花奈は、見ていないようで、花奈の戦いをしていたのだ。  例え遺言があったとしても、裁判では勝てないかもしれない。 「……花奈は凄いな……」  買い取っているのならば、遺言でもあるが、健介が手に入れるには買い戻さなくてはいけない。現金を全て美佐に渡すとなっては、買い戻す事ができない。しかし、住んでいた家を手放す事もできないのだ。  金庫の中身も確認できたので、家に戻ってみると、健介と美雪が訪ねてきていた。 「夜空君、花奈ちゃんに聞いたけど、奨介の遺品があるのでしょ?何であったの?」  どこで情報を得たのかは分からないが、もしかすると、ずっと動向を観察していたのかもしれない。  桂樹の両親は、桂樹の留守に事務所には入れないので、母屋のリビングに通していた。俺も森野も、部屋に鍵を掛ける習慣は無いので、奨介の手が見つからずにいて助かった。 「又、指輪でした……これです」  桂樹の狙い通りであったので、スムーズにオルゴールの入れ物を見せた。
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