第二十四章 夜空の昏い森 二

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「又、アンティークの指輪で、俺にコレクションしてゆけというのでしょうか……」  健介は箱を受け取ると指輪を確認していた。桂樹は、指輪はフェイクだと言っていたが、それなりに効果な物で、珍しい品らしい。 「百五十年くらい前のものらしいです。日本で言うと、明治の始めくらいのものでしょうか?外交官が所有していたなどと説明がありました。入れ物も同時期のものです」 「いいものだけど、奨介にそんな趣味があったのかな……」  健介は箱を振ってみて、二重底に気付いたらしい。 「これ、中に何か入っているね……」  健介は土台を開けてみて、中の書類を確認していた。 「それは、何でしょうか?」  白々しく聞いてみると、健介は笑顔になっていた。 「奨介の書類みたいだね。どうして、夜空君に残したのだろうね。コピーみたいだから、預かってもいいかな?」  健介も、もしかしたら奨介が所有していた物件を知らないのかもしれない。 「指輪も高価なのでしたら、戻しますよ。美佐さんは、貰っておきなさいと言っていましたけど……」 「……美佐はこれを知っているの?」  俺が頷くと、健介の笑顔が消えていた。 「……夜空君、駆け引きは止めよう。これの本物を出して欲しい。奨介の財産は、浩介のものでしょう」  ここは、やはり弁護士を立てた方が良かったかもしれない。すると、桂樹の両親がリビングに入って来ると、名刺を出した。 「私どもは夜空君と花奈ちゃんの保護者をしております、麻野です。今、二人の叔父の近松が参ります。お待ちください」 「待つって、自分達の持ち物を返せと言っているだけでしょう?早く出してください」  怒る健介は机を叩き、怒鳴っていた。しかし、桂樹の両親は微塵も怯まなかった。 「子供を嚇すのはおやめなさい」  桂樹の母親も、毅然な態度で座っていた。 「あんたたちは、息子の召使に二人を引き取ったのでしょう。偉い事を言える立場ですか」 「私達は、夜空君と花奈ちゃんに救われました。崩壊していたこの家庭を、建て直してくれたのは二人です。今度は、私達が助ける番でしょう?」  健介は怒っていて、机を蹴って立ち上がり、俺の首を掴んだ。 「感謝して欲しいのはこっちだよ。生活できなくなっていた、この二人の面倒を見ていたからね……」  健介は見知らぬ人のようで、美雪もどこか遠い存在であった。健介は奨介の親ではなく、一人の男になった気がする。
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