第二十四章 夜空の昏い森 二

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「感謝して、そっちから渡すのが筋でしょう?恩知らずだね」  襟を持ち上げられていて、息が出来なくなりそうだった。 「恩知らずな上に、泥棒か!早く出せ!」  頼りになる健介の人間像が崩れて、全てが塗り換えられてゆく。健介が優しかったのは、土地を得る目的があったからなのだ。 「健介さん……」  そこで、ドアが開く音がして、入って来た人がいた。俺がドアを見ると、走って来たような芳起がいた。芳起は、髪も乱れていて、ネクタイが曲がっているが、健介を睨む眼光は鋭い。 「そこまでですよ。近松 芳起です。夜空の母、此葉の弟です。警視庁に勤めています」  芳起も名刺を置くと、健介と向き合っていた。 「まず、浩介君ですね。奨介君の認知はされていません。貴方の養子で間違いないですね」 「これから、認知するよ」  芳起は首を振ると、DNAの鑑定書を出した。 「美佐さんに送ってもらいました。浩介君は奨介君の子供ではありません。でも、近い関係で兄弟でしょう。これが、貴方と浩介君の鑑定書で、九十九パーセントの確率で親子です」  美佐はDNA鑑定まで頼んでいたのか。 「それでも、他人の夜空君が持っていていい書類ではない」  そこで、芳起は首を振っていた。 「これはコピーです。美佐さんは、貴方を詐欺罪と横領で起訴したいと言っています。もう一度、話し合ってから来てください」  健介の顔が蒼褪めていた。すると、今度は美雪が森野を探していた。 「お兄ちゃん、家の権利書を持っているでしょ?半分は私のものよ。渡して!」  まだ、美雪は諦めていないらしい。 「それに関しては、父親がお亡くなりになった時に、半分の財産が母親、残りの半分は利基君と美雪さんになりました。その時に、現金を美雪さんに残されて、土地を利基君、家屋を逸美さんに書き換えています。その後、逸美さんが死亡、逸美さんの絵画の所有を美雪さん、家屋を利基君にしています」  美雪は首を振り続けていた。 「私の家、私の土地なの……誰にも渡さない……」  周囲を不幸にするのならば、自分の夢を諦めた方がいいのではないのか。美雪は、耳を塞いで泣いていた。 「金城は田舎で、港以外、何も無い土地だった。そこに、外の者が越してきて、旅館やホテルを造ったが、金城には利益にならない……」
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