プロローグ

2/2
前へ
/173ページ
次へ
 そして一際目立つのは、彼女が握る一本の剣。そう、剣である。白い両刃の刀身は鈍く輝き、身の丈と同じくらいあろうかという巨大な剣であったが、彼女はまるで枝を振るうかのように軽々と持ち歩いていた。   「そろそろ終わりにしようか。この騒ぎで、もうすぐ人が駆けつけてくるかもしれないしな……」  そろそろ終わりに、というのは、この不毛な鬼ごっこについてだろうか。  さっきから殺意剥き出しなところを見ると……つまりは、そろそろ殺す、と……。 「冗談じゃねえよぉぉぉぉ!」     彼女に背を向け駆け出す。だが彼女は見逃してはくれない。 「逃がすか――ッ!」  彼女は手から光の波動を放つ。光は俺を追い越し天井を撃ち抜くと、瓦礫が崩落し進路を防ぐ。  呆然とその光景を見つめていると、奴の声が。 「……これで逃げ道はなくなったな」  ビクリと体が震えた。  おそるおそる振り返ると、彼女は剣先を俺に向けながら、じりじりと距離を詰め始めていた。 「……お前、何なんだよ……」  絞り出すように出した俺の質問に、彼女――神代那由多は笑みを浮かべる。 「知れたことを……私は、勇者だ」  真顔でふざけたことをほざいた神代は跳び上がる。   「貴様との因縁もこれまでだ! 魔王!」  そして彼女は、構えた大剣を遠慮抜きで振り抜いたのだった――。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加