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学校へ着くと何か嫌な予感がした。いつもの様に生徒の話し声は聞こえず、学校は静まり返っていた。
僕は靴を下駄箱にしまって上履きを履くと、廊下を通り教室に向かった。
教室には明かりが着いていなかった。生徒は全員盲目なので教室の明かりは普段、先生のためにだけついているもので、先生が下校の時間になったら消すものだった。
生徒はいつもどおり席に座っていたが、授業は行われていなかった。教室には先生とマリアだけがいなかった。
僕はマリアを探しに事務室に向かった。廊下にも電気はついておらず暗い廊下を歩いた。
事務室にも明かりは着いていなかった。事務室からは人の気配も感じられず物音1つ聞こえてこなかったが、扉を開けることはなぜか躊躇われた。僕は事務室の扉を軽くノックした。中から返事は無かった。
意を決して僕は事務室の扉を開けた。扉に鍵はかかっていなかった。
床には人がうつ伏せに倒れていて、ソレを中心に血溜まりが出来ていた。
マリアがその向こう側に立っていた。いつかのように窓の外に顔を向けていた。その手には刃物が握られていた。
窓の外はすぐ隣の建物の壁になっていて、暗い部屋にはその窓から微かな外光が差し込んでいた。
僕は状況が飲み込めず、呆けたようにその場に突っ立っていた。しばらくしてマリアは僕のいる事務室の入り口の方に振り向くと、血溜まりの中心にあるモノを跨いで僕の方に歩み寄ってきた。マリアがソレを跨ぐ時、彼女の足元を見て僕は気づいた。
血溜まりに横たわっているのは学校の先生だった。
血溜まりは歩く彼女の上履きを赤く汚した。マリアが歩を進める度に粘着質な音が事務室に響いた。
マリアは僕の目の前まで来ると立ち止まった。彼女の目は開いたままだった。
マリアの冷たい掌が僕の頬に触れた。同時に、ドロリとした液体の感触。その液体は、彼女の氷の様な掌の温度に反して熱を帯びていた。
何が起こっているのか、判断に困った。
だけどそれは実際には息を呑む一瞬だけで、僕はすぐに事の重大性に気づいた。状況を把握したら、今度はその惨事の起こった理由の方が気になった。
だけど僕はマリアにそれを尋ねることが出来なかった。本来なら目の見えない僕は、現在何が起こっているのかを知らないはずなのだ。
だから僕はそれを演じるべきだ。いままでずっとそうしてきた様に。
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