盲目

2/4
前へ
/14ページ
次へ
 ある日の学校からの下校途中、彼女を見かけた。  雲一つ無いよく晴れた日で、アスファルトは太陽の熱で焼けるようだった。その女性は僕よりもいくらか年上ですらりと背が高く、白いワンピースを身にまとっていた。制服は着ていなかったが、高校生くらいの年齢に思えた。肌もワンピースと同じように白く、道路の反対側から遠目に見た時、人間ではなく真っ白な天使かなにかのように見えた。  彼女の歩みはとてもゆっくりで、まるで地上に落した羽を探しているかの様だった。手に持った杖で地面を突っつきながらゆっくりと歩いていた。僕には最初、彼女は何か探しものをしているように見えた。  それが僕と彼女の最初の出会いだった。  僕は放課後は特にすることもなくまっすぐ家に帰る。だからほとんど毎日決まった時間に下校していたけど、彼女を見たのはこれが初めてだった。  もしかしたら彼女は最近この街に引っ越してきたのかもしれない。彼女のような存在を一度でも見れば絶対に忘れるはずは無かった。もの珍しくて興味を惹かれた僕は、近くの横断歩道を渡り、彼女をもっと近くで見てみようと思った。  探し物が見つからないなら一緒に探してあげてもいい。どうせ家に帰っても両親はどちらも夜遅くまで帰って来ず、することもなく暇だった。  近づいてみてわかったことがある。彼女は盲目だった。  歩くのがとてもゆっくりだったので、僕は彼女の脇をすり抜けて追い抜いた。僕が追い抜くとき、彼女が少し驚いたように立ち止ったので、僕も驚いて彼女の顔を振り返って見た。彼女は瞼を閉じたまま歩いていた。そういう人を目にするのは初めてだったけど、全く知識が無い僕でも、彼女の目が見えないというのはすぐにわかった。  落し物か何かを探しながら歩いているように見えたのは間違いで、実際には白い杖で道を探って歩いていた。  目は閉じていて、杖から得られる触覚だけで道を判別していた。  後でわかったことだけど、道そのものは既に頭の中にしっかり記憶していて、杖の役割は道を探すことではなく障害物による危険をあらかじめ避ける事にあった。  僕は彼女に声をかけることもなく、ただ彼女が無事に目的地につくまでを見守った。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加