19人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女は僕に毎日見られているということに気づいていないようだった。
僕のほうから話しかけるということも特にしなかった。話しかけるにしても、なんて声をかければいいかわからなかったし、目が見えないことは一目瞭然だったので、改めてそれを聞くのも失礼な気がした。
だから僕は、彼女から少し離れたところを歩いて眺めるだけだった。それに僕は彼女を見ているだけで満足だった。彼女はいままで見たものの中で最も美しかったけど、彼女自身はそれを知らないに違いない。
僕にとってこの世で興味のあるものは彼女だけになっていた。
目の見えない彼女が毎日どこに歩いて通っているのか気になって、ある日彼女の来た道を遡って調べに行った。
歩いてたいした距離も無く、それはすぐに見つかった。街のはずれに盲学校があった。学校というには少し小さく、ちょっとした学習塾くらいの大きさだった。
彼女は毎日この学校と家を往復しているらしかった。彼女が通う目の見えない人の学校ではどんなことを教わるのか、彼女は学校ではどうやって過ごしているのか気になった。
恋は盲目という言葉をどこかで聞いたことがある。これが恋なのかよくわからなかったけど、その言葉は今の僕にぴったりだと思った。文字通り僕は彼女以外のものはすべて眼中になくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!