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 ある日僕は交通事故に遭った。帰宅途中いつもの様に彼女に見とれていた僕は、乗用車にはねられた。  音声付の横断歩道で、歩行者横断中の音声が鳴っていたので信号は青だったはずだけど、信号無視をした車が突っ込んできたらしい。僕は乗用車が迫っていることに全く気付いていなかった。  目覚めたら病院にいた。案外早く意識が戻ったみたいで、救急車で運ばれてたいして時間は経っていないようだった。共働きの両親はまだ病院に駆けつけていなかった。傍らには目の見えない例の彼女がいた。  救急車を呼んでくれたのは彼女だった。僕を跳ね飛ばした車はそのまま逃げてしまったと聞いた。おおきな音がして、彼女は交通事故に気づいたらしかった。目が見えなくても救急車を呼ぶことができるのかと驚いた。両親が来るまでに彼女と少し会話をした。彼女は盲学校の中等部で、あの学校に通うために最近この街に引っ越してきたのだと知った。  彼女はマリアという名前だった。マリアと言葉を交わしたのはこれが初めてだった。しばらく会話をして僕の無事を確認すると彼女は帰っていった。  僕の体には奇跡的に目立った外傷は無く、すぐに退院できることになった。だけど全くいままで通りというわけにはいかなかった。事故で頭を強く打った時の衝撃で、僕は失明してしまった。  ……ということになった。  実際には僕の眼は正常だった。いままでとなんら変わらずものを見ることができた。僕は医者に対して、目が見えないと嘘をついた。  別の医者がやってきて、僕の目に直接ライトを当てた。眩しかったけど、瞬きをしないように我慢した。  両親がきてからも、僕は視線を動かさないよう注意した。声がする方向に振り向くときは首ごと頭を動かして、眼球を動かさないようにした。医者が僕の目の前で手を振ったり、ライトを動かしたり色々試したけど、僕は無反応を貫いた。  そういう盲人に特有の動作は、毎日マリアを見ることで学習していた。強い光には反応を示すが、ほとんど視力が無いと医者には診断された。  それを聞いて僕の両親はとても悲しんだ。
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