マリア

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マリア

 この学校には生徒が十数人程度で、学年はバラバラだったけど全員が同じ教室で授業を受けていた。その中にマリアもいた。彼女は学校で最も年上だった。  全ての生徒から、実の姉の様に慕われていた。他の生徒はみんな、彼女のことを下の名前でマリアと呼んでいた。勉強の内容はそれぞれ違ったけど、僕は以前よりも彼女を見ることのできる時間が増えた。マリアと同じ教室で半日を過ごせる。それは僕にとって幸せ以外の何物でもなかった。彼女は僕と以前に会話したことを知らないだろうけど、そのことを僕は黙っていた。  根拠は無いけど、あのとき事故に遭ったのが僕だと彼女が知ったら、嘘がばれそうな気がした。  マリアはピアノがとても上手だった。昼休みになると、教室にある電子ピアノで聞き覚えのあるクラシックの音楽を奏でた。彼女がピアノを奏でる間は、すべての生徒が話すのをやめ、その音色に聞き入った。  彼女の演奏が終わると、そんなに上手だったらプロにでもなればいいのに。と僕は思ったことを正直に彼女に伝えた。だけど、この程度では全然ダメだと彼女は言っていた。僕にはCDと全く同じ音に聞こえるけれど、わかる人が聴けば全く違うらしい。  以前にピアノの先生に、マリアは感情を音色に乗せて奏でるのが下手だと言われたらしかった。僕にはその言葉の意味がよく理解できなかった。キミは私に似ているね。とマリアは言った。僕はそれがうれしかった。  その日から僕とマリアはよく会話するようになった。彼女は生まれつき目が見えないわけではないようだった。以前住んでいた街で交通事故に遭ってから目が見えないらしかった。僕と同じだった。  だけど僕の目が見えなくなったのは、ベランダから誤って転落したからということにしておいた。キミは本当に間抜けだね。と言われた。ひどい事を言われたはずだけど、彼女に言われると不思議と悪い気はしなかった。  この学校に通う生徒は全員が重度の視覚障害を持っていた。その中でも、ほとんど全盲といわれる人たちだった。視力が全く無いに等しく、人のサポート無しでは通常の生活が困難な子供ばかりだった。  学校の上の階は寄宿舎になっていて、そこに寝泊りする生徒もいた。寄宿舎には泊まり込みの係員がいて、彼らの生活の世話をするようだった。
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