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 盲人の世界でただ一人目の見える人間は、その気になれば世界の王にだってなれるだろう。というようなことを最近思う。  世界を認識するための感覚器官が1つ多いというのは多分そういうことだ。もしかしたら、たまにテレビなどで見る超能力者や第六感をもつ人間というのが実際に存在すれば、彼らは僕らより多くの情報を世界から得て、僕らの知らないことをたくさん知って、より早く色々なことができるに違いない。  そして本物はテレビなどに出ず、僕が目が見えるのを隠しているように、その能力を黙っているだろう。もしかしたら話しても誰も信じないかもしれない。  僕が生まれつき目が見えなかったら、そして世界に目が見える人間がほとんどいなかったら、目が見える人の話も、目というものの存在も僕には理解できないだろう。  ここ最近、僕は奇妙な夢を見るようになった。マリアの夢だ。  マリアが一人、血だまりの中に佇んでいる。周りは暗く、ぼやけていて自分がどこにいるのかは分からない。マリアを中心に血だまりの濃い赤の面積は広がっていく。  マリアが白、背景が黒、血だまりは赤。ぼやけているはずなのに、その三色の強烈なコントラストがいつも印象に残る。  僕は目が見えないと嘘をついている。目が見えなければ現実ではマリアも血だまりも見ることは無いだろう。    僕は身動きせず、音も立てずにただ立ち尽くしていた。だけどマリアは僕の気配に気づいて、歩いて近づいて来る。  マリアの冷たい指が僕の頬に触れた。同時に、ドロリとした液体の感触。その赤い液体は、彼女の氷の様な掌の温度に反して熱を帯びていた。  僕は黙ったまま、どうすればいいのかわからないでいた。彼女にかける適切な言葉は一つも見つからなかった。   マリアは僕の耳元に顔を近づけると、母が子に自分の犯した悪戯を諭すような口調で何かを囁いた。  夢は毎回そこで終わる。マリアが僕に何を言ったのかは分からない。  夢の内容はいつも同じだった。この夢はマリアに嘘をついている僕の罪悪感から来るものだろうか。
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