たとえ、言われても。

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たとえ、言われても。

ーーこんなところに、こんな店があったとは。 人通りの多い駅前通りから小路に入り、さらに歩くこと5分。恵美理(えみり)は、煉瓦造りのその建物を見上げる。2階建てくらいの高さはあるが、幅がない。ドアが2枚分くらいだろうか。テレビで日本一細い家、なんていうのを観たことがあるが、それに負けないくらい細い気がする。 古びた扉に下げられている、木でできた楕円形の看板には「喫茶 忘れたい屋」と、これまた達筆な字で書かれている。完全予約制、1日1組までという敷居の高さ。さらには利用料、3万円。喫茶店とは思えない破格。 それでも恵美理は、この店に訪れた。実は予約を入れたのは、半年前だ。ホームページすら存在しない、テレビ取材一切お断りのこの店は、口コミだけで有名になった。知人から噂を聞いた恵美理はさっそく店に電話を入れた。記憶が正しければ、アニメの声優さんのような声の女性が対応してくれたように思う。店主は男性らしいと聞いているが、どういうことなのだろう。 いや、そんなことはどちらでも良い。重要なのは、私の目的が果たせるかどうか。私という人間を、本当に真摯に受けとめてくれるかどうか、だ。
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