たとえ、言われても。

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「いらっしゃいませ」 不意に、目の前の扉が開いた。こちらが扉を開けようとするよりも先に。 出迎えたのは、成人式も迎えていないであろう、若い女の子だった。西洋人形が(まと)っていそうな、レトロなドレスがよく似合う。動物に例えるならうさぎのように、愛らしい雰囲気を漂わせている。 「ご予約の佐藤恵美理さまですね」 「は…はい」 「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」 半年前に電話で応対してくれたのは恐らく彼女だろう、可愛らしい声に恵美理の緊張が少し解れた。 「お邪魔します」 一歩入ると、いかにも老舗の喫茶店という内装。幅がないからか、横の壁にくっつくような形で二人がけの大きさのソファが置かれ、その隣に小さな丸テーブルがある。 奥にはカウンターがあり、目を疑うほどの種類の珈琲豆やドライハーブ、瓶に入った小菓子などが収納されていて、これがまたなんともお洒落だ。 「いらっしゃいませ」 カウンターの奥から声を出したのは、70代くらいの店主と思しき男性だ。
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