屍・桜・針鼠

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サクラが嫌い。 サクラは全部全部私から取り上げる。 今までの全てを置き去りにさせられた。 サクラは自分と同じ色の凶器だけ預けて私にこう言った。 「シカバネをつくりなさい」 シカバネ。 サクラが宿す人格を形成する生贄。 そんなものをつくるならカバネになった方が良い。 「シカバネをつくりなさい、あなたのサクラに捧げなさい」 いやだ、どうしてそんなことをしなくちゃならないのか分からない。 「あなたの役割は剪定。刈り取るべきものを刈り取り、そして捧げなさい」 いやだ、刈り取るなんて私にはできない。 「あなたにはサクラの外套を与えましょう」 いきなり桜吹雪に包まれた。 「うわっ……ゲホッゲホッ!!」 喉に入った……最悪。 「刈り取りなさい、シカバネはすぐにカバネになってしまう」 そして私はシカバネの元へと送られた。 幸せそうな良いヒトたちだった。 愛されていたし、愛していた。 幸福とはああいうことを言うのだろうと思った。 しかし。 幸せとは。 幸福とは。 永く続かないから幸福なのだ。 みるみるうちに不幸が降りかかった。 誰も悪くなかった、それでもヒトは不幸になった。 あっという間に幸福はその手のひらからすべり落ちて行った。 シカバネだけは生きていた、生きていることが奇跡と言われ続け生きていた。 生きていて欲しい、そう思う。 「ふふっ……どうして君はずっと泣いている?君は僕をシカバネにできるのだろう?」 確かにあったあの愛が。存在していた幸福が。 「僕はきっとすぐに死ぬ。今は何もなくてもすぐに死ぬ。君よりもずっと先に死ぬ」 お前がいなくなったら消えてしまう。尊いものが消えてしまう。だのにシカバネは言う。 「シカバネになれば僕は永遠だ。美しくいつまでも在る」 自分はシカバネになりたいと。永遠のサクラになりたいと。 そんなことは許容できない。お前はお前に注がれた分を生きなければならない。 「僕はシカバネになりたい。そのサクラ色の刃で貫けば僕はそうなれる」 お前は尊いもので生かされている。それを私に断てと言うのか。 「お願いだ。僕を君のシカバネに」 サクラが舞う。 そして散る。 散華は美しくそして悲しい。
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