屍・桜・針鼠

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サクラは色づく。シカバネを内に宿して。 サクラは華やぐ。シカバネの色を纏って。 「きれい……こんなきれいなの見たことない……!」 少女は目を輝かせた。 少女には見えない、サクラのヒトもシカバネもハリネズミも。 見えるのはサクラの美しさのみ。 桃色にあるいは紅色の花弁が天を覆い絶えず散りながら咲き誇る。 「ねえお母さん。どうして桜ってこんなに綺麗なの?」 無邪気な問いかけにくすりと笑いながら母親が答える。 「桜の木の下にはね、ーーが埋まっているの。命で咲いているからこんなに綺麗なのよ」 「えーうっそだー!!学校ではそんなこと習わないもん!!」 「あちゃー、バレちゃったか。そうよ埋まっているのはそんなものじゃなくてもっと尊いものよ」 「とうといってなに?」 「それは大人になれば分かるわ」 「ぶー!!それならすぐに大人になるもーん!!」 「はいはい分かりました。それじゃお家に帰るわよ」 「はーい」 親子は歩く、不思議なことに母親が歩いた後にだけサクラの花弁が積もっていた。 サクラは今までもこれからも咲き続ける。 シカバネとサクラのヒト、そしてハリネズミがいる限り。
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