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序章 きっかけ
冷たい風が頬をさす23時。
ボクはイグニションキーをひねっていた。
キュキュキュブォ~ン
ファンベルトの擦れる音と共にハチロクのエンジンに火が入る。
ステアリングを2,3回撫でる。
いつもの儀式だった。
トムスのハンドルが手にしっかり馴染んでいた。
軽くアクセルをあおる。タコメーターが鋭く反応する。
乾いたエキゾーストノートが心地よかった。
今の走りのステージ、大山に向かう。
KENWOODのカーステレオから、ブルーススプリングスティーンのBORN TO RUNが力強く聴こえる。
峠に向かうのは、いつも不安だった。
スプリングスティーンの曲がボクに力を与えてくれた。
遠くからタイヤのスキール音が聞こえてくる。
峠<やま>が近づいた。
徐々に不安が減り、アドレナリンが高まっていく。
いつもの車がいる。ハチロク、Z、 CR-X・・・。
はやる気持ちを抑え1周様子を見る。
頂上の駐車場の折り返し。後ろにセリカXXがつく。
勝負。
クラッチをつなぐ。微妙にスキールしながら滑り出す。
7000回転で2速、ミラーに相手の車のヘッドライトが大きく映る。
高速の左コーナー。
ぎりぎりまでブレーキングを我慢する。
ストレート。
アクセルを床いっぱいに踏みつける。
いくらか差がついたか。
1周して駐車場に車を停めるとセリカも微妙に距離をとり車を停めた。
「速いですね」セリカの人が声をかけてきた。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
半年前
その日初めて会長に会った。名前を田沢達也と言う。
石井君の友達で、石井君と遊んでいたら偶然出会った。
大山に行くと言うので、ついて行くことにした。
カローラⅡのカーステレオからお気に入りのスプリングスティーンが流れている。
石井君はおにゃんこクラブが好きなので不満そうだが、僕の好みに合わせてもらう。
車が山道に入った。
突然、会長の車がスピードを上げる。
慌ててハンドルを切るがついていけない。
2,3コーナー先で会長の車を見失ってしまった。上のほうは霧もでていた。
頂上につくと会長はタバコを吸っていた。
「速いねー」 とは言ってみたが、どうも釈然としなかった。
大山に行ったのは、その日の夜が初めてだった。
もっと車の運転が上手くなりたい。そう思うようになった。
そんなとき、コンビニで買ったカー雑誌にサーキットの走行会情報が載っていた。
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