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この佐野屋に清三という若い衆がおりまして、これがまァ酒は飲まない煙草はやらない――ともかく大変な堅物で、搗き米屋の職人にいたしましては色の白い、ちょいと好い男なんでございますけれども、これまで浮いた話の一つも無い、という男。
その清三が、ふと患い付きました。
はじめのうちこそ皆、
「おやおや、鬼の霍乱かねぇ。珍しいこともあるもんだ」
「馬鹿は風邪を引かないってなぁ、ありゃ嘘だな」
なんてのんきに構えておりましたけれども、見る間に痩せ細り、とうとう枕が上がらなくなってしまいました。何しろ食事が一切喉を通りませんので。
慌ててお医者を呼びますが、
「こりゃぁわたしの手に負えるものじゃない。どうやら、何か胸につかえている物があるのだろう」
胸のつかえが取れさえすれば、たちどころに本復するであろうと、分かったような分からないような診たてでもって匙を投げてしまう。
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