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「むしゃむしゃ餅を頬張りながら、柳原土手をずぅっと歩いて行くうち、後ろから大八車が恐ろしい勢いでやって来て、危うく突き当たられる所で――」
「無事に済んで良かったじゃねえか。この商売は、体が資本だ」
「ところが無事じゃあねえ。慌ててよけた拍子に、懐に抱いていた幾世餅がすっ飛んだ。大事な最後の一つだ。落としちゃならねえと、あっしはすかさず飛びついて、パクリ」
「器用な野郎だねぇ。そんな芸があるのなら、いっそ広小路で見世物に出たら、大入り間違い無しだよ」
「いえいえ、命がいくらあっても足りません。途端に餅が喉につかえて――」
「おう、分かった! 誰か、清三を吊し上げろ」
「ひえぇ、ご勘弁を――っ。もう買い食いなんて金輪際いたしやせんから、これこの通りっっ」
「何言ってやがる。その餅が、未だにつかえてやがんだろう。それで、飯が喉を通らねえに違ぇねえ。逆さにしてぶっ叩けば――」
「ちちち違うんです、親方っ」
「なんだ詰まらねえ。何が違う?」
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