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「あっしはもう目を白黒させながら死に物狂いで柳原をターっと駆け抜け、八辻が原で茶店に飛び込んで、胸を叩きながら、み、水を一杯――」
「馬鹿だねお前は。水茶屋に入って、ほんとに水をくれなんてぇ野暮天があるか」
綺麗な看板娘に、お茶を入れて接待していただけるのが、水茶屋というもので。
「まあおにいさん、どうなすったの? あらあら大変――」
「聞いちゃいないよ。声色なんぞ使うことはねえんだ、気色悪い」
白魚の手でもって、すっと冷ましたお茶を差し出してくれる。もう一方の手では甲斐甲斐しく、トントントンっと、背中を叩いてくれる。
この年まで女遊びひとつしたことの無い清三でございますから、餅の方はおかげで何とか無事に胃の腑へ収まりましたが、代わりに口から魂が飛び出しちまって、ピュンピュンそこらを飛び回った挙げ句、戻り損ねてこの辺に引っかかっちゃった。
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