茶汲女

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茶汲女

「うーむ、茶汲女か……」  水茶屋の看板娘のことを俗に茶汲女と申しますが、これは言ってみれば会いに行けるアイドル。  幾世餅由来の吉原の花魁、松の位の幾代太夫なんぞとは異なりまして、その気になれば誰でも会うことが出来ます。金が一文も無くったって、遠巻きに姿を見ることはいつでも出来ますし、茶代を払えば握手――はどうだか分かりませんけれども、にっこりとお愛想の一つも言いながら、手ずからお茶を渡してもらえる。心付け次第では、話し相手もしてくれます。 「で? どこの店のなんて女だ」  入れあげてしまいますてえと身を滅ぼしますのはどちらも同じと言いながら、茶代なんてのは花魁の揚げ代に比べればほんの端金です。  そこまで思い詰めているのなら、こんなところで寝込んでいるよりも、いっそ会いに行ったが良かろうと申しました所が、清三、情けない顔をして首を横に振ります。
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