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「――分かんねえ」
「なんだ?」
「わかんねえんだ、名前も、店も……」
「そそっかしい野郎だねぇ。惚れた女の名前くれえは聞いてくるもんだ。ま、いいや。場所は八辻が原と分かっているんだから、ちょいとおめえ、これから行ってみようじゃねえか。俺が付いてってやらあ」
「無かった」
「ああ?」
「無かったんですよぅ、ほら、年始のお供をした時に――通りすがりにちらっとでも姿を拝めるんじゃないかと内心わくわくしてたんでございます。でも、無かった。それらしい店がどこにも……影も形も……。もう二度と、あの人には会えないのかと思ったら、あっしは……あっしは………」
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