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「ユキト、僕の肌は雪みたいな色なんだって。でも、僕もハヤトも雪なんて見たことないから、よく分からないよね。」
ベッドの上から、雲一つない青空を見上げて、兄が言う。
窓の外で鳴くセミの声が、空気をやかましく振動させる。
「一度くらい、雪を見てみたいなあ。」
雲の白さとはまた別なんだろうか、と空を見上げながら呟いて、微笑む。
「…病気治して、俺のところに遊びに来ればいいじゃん。」
兄のベッドに腰掛け、言葉を返したものの、少し拗ねたような口調になってしまう。
恥ずかしさを取り繕うように、横目で兄を睨む。そんな俺の視線を物ともせず、兄は微笑んだままこちらに向き直る。
「そうだね。ユキトが今住んでいるところは、雪が降るんだった。だったら行かない手はないなあ。」
「いつでも、来ていいから。俺があっちにいる間は。一週間くらいなら大学も休むし。」
兄の柔らかい笑顔を見ていられず、手元に視線を落とす。知らずに、俺の手はシーツを強く握りこんでいた。
「ありがとう。僕が遊びに来るの、楽しみにしててね。」
「なんだよ、それ。逆だろ。俺が楽しみにするんじゃなくて、兄さんが遊びに行くのを楽しみにするんだろ。」
「ああ、そうか、そうだね。」
そう言うと、少しの間、兄は片手を口元に当てて、肩を震わせた。
せき込んでしまったのか、笑ったのか。
兄の声は、セミの声にかき消されて、俺の耳まで届いてこなかった。
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