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住み慣れてきた町に、今年初めての雪が降った日、両親から兄の病状悪化の知らせが届いた。
慌てて飛行機に飛び乗り、兄の入院している病院についた俺を迎えたのは、泣きはらした顔の母と、毅然とした態度でいるものの、悲痛さを隠し切れずにいる父だった。
「ユキト、兄さんにお別れを言ってきなさい。」
父の言葉は耳に入り、しかし脳で処理されることはなかった。
空っぽの心のまま兄の病室に入る。兄の胸元の毛布が、わずかに上下している。
兄との分かれがすぐそこに来ている実感は、湧かなかった。
「ユキト…?」
俺の気配に気づいたのか、兄が少しだけ目を開いて、こちらに向ける。
「ユキト、ごめんな。大変だっただろ。」
「こんなときまで、謝るなよ。」
「ああ、ごめんな。」
何度も見てきた兄の微笑みだが、今日ほど優しい微笑みは見たことがなかった。
「ユキト、雪だるまを作ったこと、ある?」
「は?」
唐突な兄の質問に、間抜けな声が出る。
「雪だるまだよ、雪だるま。」
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