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「……何だよ、それ……」
水神はやっとそれだけ口にした。
『確かに、俺は白石先生のところに祐天寺を行かせたよ? でもさ、それで滅茶苦茶にすることが目的なら、おまえに知らせたりしないよ。俺の性格、わかってるでしょ? 』
狡猾で、打算的な柳田。水神はその性格を知っているからこそ、柳田の言葉に説得力を感じた。
けれど、透を傷つけたことには変わりない。
「……そうだとしても……透くんは、酷い目に遭ったんだ……」
絞り出すように水神はそう言った。透き通る程白い肌を晒して、手首には血が滲み、涙を流していた透を思い出すと、胸が締め付けられた。
『ああ、確かに手首に包帯巻いてたな。それは悪かったよ』
また軽口を叩くような口調だった。水神はついカッとなった。
「……あんな姿を……あんな可哀想なことをしてっ……!! よくそんなことを……!!」
『……だけど、それ以上に祐天寺を傷つけたのはおまえだと思うよ? 』
一切の戸惑いを見せない柳田の言葉に、水神は言葉を失った。
『白石先生の一件だけじゃ、祐天寺は辞表なんて出さなかった。違う? 』
「……それ、は……」
否定する言葉は出てこなかった。
透は、白石の一件の後も気丈に振る舞っていたし、水神の原稿を読んで忌憚のない意見を付箋に書いてくれていた。透を決意させたのは、他ならぬ水神なのだ。
『俺は、白石先生を利用してアンタら二人に恋心を自覚して欲しかっただけだよ。実際意識したんだろ、お互いに』
「……でも……でもっ……」
――――すれ違ってしまった。
お互いに好きだったのに、直接伝えることは叶わなくて。
『……馬鹿じゃないの? お互いにお互いを思いやったあげく、お互い傷ついてるじゃないか。不毛だと思わないのか? 』
「不毛だとか、そういうことじゃないんだよ……私は、ただ……」
『あー!! くだらねぇっっ!! 』
柳田は電話口で大きな声を出した。水神は、編集部内でそんな声を出して大丈夫なのかと勝手に心配になった。
『恋愛って、そういうもんじゃねぇだろ』
はっきりとした声で、柳田は言い切った。
『かっこつけてんじゃねぇよ!! いつもいつも、何でアンタはかっこつけて逃げるんだ。無様だっていいんだよ、何でストレートに“好きだ”って言えないんだ!! 』
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