931人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
祐天寺透、25歳。
昔から身体が小さく、運動は苦手で、男の子らしく日焼け顔で遊んだりすることもなく、部屋で本ばかり読んでいる青白いヒョロっとした、いわゆるモヤシのような子供だった。
とにかく、三度の飯より本が大好きだった。
寝る間も惜しんで本を読んでいるうちに、近眼になり、眼鏡が手離せなくなった。
元来のパッチリとした二重の目は、どぎつい眼鏡で隠されている。
読書が好きな眼鏡くんとはいえ、勉強ができるとは限らない。
国語以外はからっきし。運動神経は皆無。
学生時代のあだ名は大概“のび太”である。
趣味といえば、読書しかなかった。
そんな彼に恋人などできるはずもなく、友人兼恋人が本という有り様だった。
それゆえ、誰に言われた訳でもなく、いつしか本を作る仕事に就きたいと思うようになった。
そして、かねてからの夢であった文芸雑誌の編集の仕事に就いて早3年が経つ。
しかし、最初から夢に描いていたような仕事は回ってこなかった。
性格があまりに控えめで押しが弱く、その上ドジであったから、お茶汲み、コピーやら諸々の雑用、先輩の補助的な仕事ばかりさせられてきた。
そんな彼は、この度、晴れて担当を持たせてもらうこととなった。
やっと今までの努力が実を結んだ――――。
そう思っていたのだけれど。
最初のコメントを投稿しよう!