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 祐天寺(ゆうてんじ)(とおる)、25歳。  昔から身体が小さく、運動は苦手で、男の子らしく日焼け顔で遊んだりすることもなく、部屋で本ばかり読んでいる青白いヒョロっとした、いわゆるモヤシのような子供だった。  とにかく、三度の飯より本が大好きだった。  寝る間も惜しんで本を読んでいるうちに、近眼になり、眼鏡が手離せなくなった。  元来のパッチリとした二重の目は、どぎつい眼鏡で隠されている。  読書が好きな眼鏡くんとはいえ、勉強ができるとは限らない。  国語以外はからっきし。運動神経は皆無。  学生時代のあだ名は大概“のび太”である。  趣味といえば、読書しかなかった。  そんな彼に恋人などできるはずもなく、友人兼恋人が本という有り様だった。  それゆえ、誰に言われた訳でもなく、いつしか本を作る仕事に就きたいと思うようになった。  そして、かねてからの夢であった文芸雑誌の編集の仕事に就いて早3年が経つ。  しかし、最初から夢に描いていたような仕事は回ってこなかった。  性格があまりに控えめで押しが弱く、その上ドジであったから、お茶汲み、コピーやら諸々の雑用、先輩の補助的な仕事ばかりさせられてきた。  そんな彼は、この度、晴れて担当を持たせてもらうこととなった。  やっと今までの努力が実を結んだ――――。  そう思っていたのだけれど。image=510769539.jpg
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