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「祐天寺くん。今回、君に担当を持たせるという話は聞いてるね? 」 「はっ……はい!! 柳田さんから、聞いてました!! 」  編集長にデスクまで呼ばれてそう問われたので、気をつけの姿勢で大きな声で返事をする。  担当を持たせてもらえるという話は、隣に座る直属の上司柳田から既に聞いている。詳しいことは後から編集長直々に話される、とも言われていた。 「今回、君に担当してもらうのは水神(みずかみ)誠司(せいじ)先生だ。もちろん知っているよね? 」 「はっ、はい!! 」  知らないはずがない。  水神誠司先生は、うちの雑誌の看板作家じゃないか。  主に恋愛小説を得意とし、ヒット作は多数あり、映画化された作品もある。  それに、水神はルックスも良く、根強い女性ファンを多く抱える。  この水神がいなければ、雑誌の売り上げはがた落ちになるに違いない。  そんな大先生を知らないはずがないではないか。  そこまで考えて、透は「えっ? 僕が? 」と声を上げた。  その反応の鈍さに、編集長は苦笑する。 「そう、その水神先生を君に担当してもらうんだよ」 「えっ、えっ? どうして、どうして僕なんですか?! 」  今の今まで一度も担当を持ったこともないのに、なぜいきなり雑誌の看板作家を担当させられるのか。  透は戸惑いを隠せない。  “責任重大”そんな重い言葉が頭にズシンとのしかかった。 「僕は、担当を持つこと自体初めてで……」 「あはは、それは知ってるよ」 「それなのに、どうして……」  編集長は、デスクに両肘をつき物憂げにふぅーと長い溜め息を吐いた。 「あのね、みんなダメになっちゃったの」 「どういうことです……? 」 「……ほら、ここだけの話、先生イケメンでモテるでしょ? 」  声をひそめて何を言うかと思えば、そんなことだった。 「手を出してんのさ」 「へぇっ……? 」  編集長の言っている意味がわからず、すっとんきょうな声を出す。 「今までね、先生のお気に召すように、綺麗な女の子ばかり担当にしてたんだけどさぁ。みんな、降りちゃって」  そう言われれば、編集部の可愛い子……あの子もその子も、あっちの子も、みんな水神の担当をしていたような気がする。
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