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「早速少し思い付いた設定を書いてきてもいいかな? 」
「……はい!! 」
きっと端から見ると妙に思うくらい背筋を伸ばしてしまっている。
何だかおかしい。最初よりも緊張している。ただ、初日とは緊張の種類がどことなく違うというのは、透も感じていた。けれど、今は何に緊張しているのかわからない。
何だかそれは、通常好意を持つ異性に抱くものと似ている気が――――
透は、そこまで考えて頭を横に振った。
違う違う。水神がイケメン過ぎるからこういうことを思うのだ。
要は造形の美しい顔に見惚れているということ。男として、その聡明さと美しさに憧れを抱いているということ。
自分にはないものを持っている水神が眩しいという、それだけだ。
「透くん」
「は、はい!! 」
いつの間にか、水神が隣に来ていた。
近くに来るとますます、その顔の美しさに見惚れてしまう。
何て、複雑な顔立ちなんだろう。
惚けてしまうとは、まさにこういうときに使うのだろう。
「待っている間、これを食べていてください」
何かを渡すように手を差し出されたので、透がおずおずと手のひらを上に向けると、丸い、包み紙に入ったものをそっと置かれた。
「……チョコレート? 」
ピンクや金のアルミの包み紙は、高級そうなチョコレートのようだった。
「そう、疲れたときには甘いものです。中身は何か、食べてからのお楽しみ」
水神はそう言って微笑み、書斎の方に入っていった。
透は、広いリビングにポツンと残された。
水神が離れた瞬間、何だか変な身体の力が抜けた。
別に水神が怖くて緊張している訳ではないのだけれど、どうもあの美しい顔には弱いらしい。
透はそれでいて、水神がどんなところで作品を書き上げるのか見たかった、とも思った。そこは大好きな本に対する情熱や好奇心が勝るのだ。
透は手持ちぶさたになって、キョロキョロと辺りを見回した後、カフェラテを口に含んだ。そして、貰ったチョコレートの包み紙を開いて、口に入れた。
「ん……甘い……」
蕩けるような甘さが口いっぱいに広がった。
身も心もほどけていくような感覚を覚えて、ホッと息を吐く。カフェラテとの相性は抜群だ。
そして、チョコレートが溶ける。
「あ……」
水神が戻ってきたら、言ってみよう。
中身は甘酸っぱい果汁感たっぷりの苺のジュレだった、と。
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