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 口の中で蕩けた、チョコレート。  甘い、けれどさっぱりとした爽やかな酸味のある苺のジュレが入ったチョコレート。  その味が、心の中にずっと残っている。  水神がくれた、優しい微笑みとともに。  透は、会社の休憩室の自動販売機でカップのカフェラテを買った。  砂糖は入れないでみた。  休憩室のソファーに座り、カフェラテをふーふーと息を吹きかけて冷ましてから、一口すする。  そして、出勤途中のコンビニで買った“心ほどける”などと謳ったストロベリーチョコレートを一つ口に含んだ。  甘い。チョコレートはその一言に尽きる。  カフェラテは、苦いというより何だか人工的な味がする。何か添加物でも入っているのだろうか。  透は元より甘党である。  休憩中にはいつも、甘いお菓子とココアやらミルクティーやらを合わせてとる。  前まではこれで満足していたのだけれど、あの水神から貰ったチョコレートの味を知ってからというもの、こうやっていろいろなチョコレートとカフェラテの組み合わせを模索してしまうのだった。 「……先輩」  上から声が降ってきたので顔を上げると、そこには一年後輩の女性社員の後藤まなみが立っていた。 「また甘いものですか? 」 「うん……」 「太らなくて吹き出物もできないなんて、羨ましい。どんな食生活なんですか? 」 「僕は元々食が細いから……」 「答えになってませんけどね」  このキッパリとした物言いが、透はとても苦手だった。  後藤は、この物言いの如くバリバリと仕事をこなす女性で、入社して1年も経たぬうちに売れる新人作家を輩出し、何人かの作家を掛け持ちして担当している強者である。それでいて可愛い系の美人というのだから、まさに自分とは真逆だと透は思っている。 「……先輩、水神先生の担当になったんですよね? 」 「うん、そうだよ」 「何で、先輩が? 」  ハッキリとそう言われて、透は“またか”と思いつつたじろいだ。  後藤は、昔から先輩であるはずの透を馬鹿にしたような言動をする。  彼女は入社してすぐ編集部内の人間関係を把握すると、明らかに透を見下したような態度をしてくるようになったのだ。  入社して3年担当を持っていなかったし、実際に後輩より仕事ができないのだから、仕方ないのだけれど。
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