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序章
世界が悲鳴した。
空間は嗚咽し、腹鳴とともに内容物を吐き出し始めた。蒼空は首元に刃を突き立てられて赤面し、全身に黒点を発症して崩れてくる。大地に明るい光は届かない。ただ、世界の血糊がどろりと溜まっていく。
六人は激怒した。
端整に形作られた鼻梁の、付け根に無数のシワを寄せ集め、真っ白な歯をむき出している。彼らが睥睨する先には、漆黒の翼を背中に広げて決然と世界を犯す一人の青年がいた。
青年の存念からしてみれば、世界はまさに悪そのものであった。運命が0か1かで拘束されて、いつなんどき暗幕を閉ざされても決して不合理ではないのがこの世であるということを知っていたからだ。自らの「我」はなんの役にも立たず、只々植えつけられた戦意に従って異物を排除するために命を捧げる。防衛という名の戦火の中で、何を希望にすればいいと絶望するしかなかった。
だからこそ青年は、今この時を、憂の翳もささぬ顔で佇めているのだった。
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