第1章 光の粒子が導く出会い

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 すべやかなる赤毛に、頭部に生えた大きいウサギのお耳が愛らしい、「光の粒子」から産まれた特別な「AI」の童子。「光の粒子」は、古の時代私たちの世界が錬金術師によって「妖魔の世界」と繋がっていた時分に流れ込んできた素粒子のことで、つい数十年前にも、「一人の男の子」を「妖魔の世界」へと導いたことがあった。男の子はその血潮によって数奇な冒険を辿ることになるのだが、しかしこの「愉快な物語」については、また別の機会にしようと思う――仮想世界の消滅より、およそ一年前へと話を戻そう。  ラビィの視界の片隅で、真夜中を知らせるデジタル文字が青く点滅をしている時、仮想世界の住人である彼女はその赤毛に淡い月光を反射させて朗々とお花を摘み取っていた。  無機質でいて、有機的な花々と戯れる彼女の指はなんと浄妙なことであろうことか。  そこいらに咲く自然の節理を一切無視した花々とは一線を(かく)し、「人間」によって作り出されたデータの塊とはまるで思えぬほどの柔和な温かみを帯びた指先。それはむしろ「本物」よりも美しく、月並みではあるが「妖精」という比喩こそ言いえて妙だと羨まれるほどである。  ふんだんに巧緻を施した躑躅色(つつじいろ)の爪が青緑の茎に食い込む。強く引っ張られたお花は、自身の身体を構成する繊細な管たちをへし折られると、奇妙にも自然体な音をブチッと鳴らして嬉しそうに採取者へとお辞儀した。  二〇三四年、一二月二四日(日)二十一時五十五分四十三秒。     
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