気付いた時には落ちていた

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「倉内」 後ろの方で私の名字を呼ぶ声がするけど、私はけして振り向かない。この声は私を呼んでるわけじゃないって、ちゃんとわかってるから。 だって、振り向いたらきっと、ちょっと気まずそうな顔をした男子に「あーっと、用があるのは可愛い方の倉内さんなんだけど」と言われるのがオチだ。これは高校生活で嫌というほど経験してきた紛うことなき事実である。ああ、悲しい。こんな名前、大っ嫌い。 「倉内」 後ろの声はまだ止まない。 「倉内」 「…………」 「倉内ってば」 「…………」 「おい、倉内美奈!」 「……っ!?」 大きな声でフルネームを呼ばれたと思えば、右腕をぐっと引かれて立ち止まらざるを得ない。……え、なに。ホントに私のこと呼んでたの? 可愛い方の倉内さんじゃなくて? ギギギ、と錆び付いたおもちゃのように首を回すと、そこには見知った男子生徒が立っていた。 ワックスで無造作にセットされた黒髪に左右三つのピアス、つり上がった三白眼、着崩した制服。 「……河西(かわにし)くん?」 私の腕を掴んでいたのは同じクラスの河西くんだった。ちなみに、現在隣の席の人物である。 河西くんはぐっと眉間にシワをよせると、私を睨むように見下ろした。う~ん、鋭い三白眼で見下ろされるとなかなか迫力があるなぁ。
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