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河西くんは不機嫌そうな顔のまま小さく口を開いた。
「……何回も呼んでんじゃん。止まれよ」
「あ、ごめん。倉内って私の方だと思わなくて。勘違いして振り向くのも恥ずかしいし、みんなに気まずい思いさせるのも悪いかなって」
思ってたことをそのまま伝えると、河西くんの眉間のシワが更に深くなった。いやいやなんで!? 怖いんだけど!
「えっ!? なんか今河西の口から倉内さんの名前聞こえたんだけど!!」
「なになに!? いるの!?」
地獄耳らしいさっきの男子生徒二人がわらわらとこっちに近付いてくる。うわヤバイ。これ絶対面倒くさいパターンだ。私の眉間にも自然とシワが寄っていた。
河西くんの後ろからひょっこりと現れた男子生徒二人の顔が、私と目が合った瞬間明らかに落胆の色を見せる。
「な~んだ。〝じゃない方〟の倉内かよ~」
「まぎらわしいんだよお前~」
私は咄嗟に俯いた。
もうさ、こういうのいい加減にしてほしい。そっちが勝手に勘違いしたくせに勝手に文句言って。こっちがどんな気持ちになるかとか、そんなの考えもしなくて……。いくらこの扱いに慣れたって言っても、傷付かないわけじゃないんだからね。ギリ、と奥歯を噛み締めた、その瞬間。
「オイ」
恐ろしく低い声が聞こえてきて顔を上げると、河西くんが連続殺人犯のような形相で二人の事を睨んでいた。う、わ! これは明らかに怒っている。それも、結構マジなやつ。
「な、なんだよ河西。そんな睨むなよ」
「あ゛?」
「ひっ!」
「つ、次移動だから俺たちもう行くわ。じゃーなー」
河西くんのオーラにビビったのか、二人の男子生徒はそそくさとこの場から逃げ出した。うん、分かるよその気持ち。だって横顔だけでも恐ろしかったもん。正面から見られていた彼らの恐怖は計り知れない。
二人の足音が遠ざかると、残された私と河西くんの間に気まずい空気が流れた。
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