エピソード1 まだら蛇と鵺守

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 鬱蒼とした獣道は、ひっそりと静まり返っていた。  腰ほどもある草を掻き分けながら出来るだけ足音を立てないように歩を進めていると、後ろから或麻が訊ねてくる。 「そもそもあの連中、何者なのさ?」 「おそらく近くの大学の山岳部かワンゲル部。山登りの格好してたから」 「十人くらい居たわよね。これってもしかして、ウチら貞操の危機なんじゃないの?」 「誰かさんみたいに短いスカートの制服で山登りしてる女子高生といきなり出くわしたら、そりゃ欲情もするでしょ」 「にしても、いきなりピッケルで襲ってくるなんてアバンギャルド過ぎるでしょ。シュールよシュール」  私の嫌味など全く意に介さず、或麻はからからと笑う。この脳天気な思考は一体どこからやって来るのだろう。いつか彼女の脳味噌をかち割って覗いてみたいものだ。  或麻は制服のスカートに付いた枯葉を払いつつ、ピンク色のグロスを塗った唇を尖らせる。 「はあ、今日の夜はトモヤと遊ぶ予定だったのに、絶対間に合わないわ。とんだとばっちりよ」 「トモヤ? 誰?」 「ああ、専門学校生とか言ってたかな。この間、街歩いてたら声掛けられたの」 「尻軽が」 「子桃(プラム)が尻重過ぎるのよ。小ぶりな割に」  屈んでいた尻を或麻に撫でられ、思わずひあ、と変な声が出る。赤面して睨みつける私に、或麻は吊り気味の瞳を細めて含み笑いする。 「怒らないって。尻に火が点いてないか確認してあげたのよ」 「火は点いてなくても、帆は掛かってるでしょうに」  命を脅かされている状況であるにも関わらず、どうしてもこうも軽口を叩けるのだろうか。すでに一年近い付き合いになるが、私は未だに或麻の性格を把握できていない。  うちの高校の郷土文化研究会は、私と或麻の二人だけだ。  地味で根暗で卑屈な私と、派手で軽薄で奔放な或麻。同じ部員とはいえ、ベクトルは正反対だ。そんな私たちが行動を共にしていること自体が、もしかすると奇跡に近い現象なのではないだろうか。
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