エピソード1 まだら蛇と鵺守

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エピソード1 まだら蛇と鵺守

 振り下ろされたピッケルの刃が、頬を掠める。  鈍い音を立てて地面に突き刺さる鉄褐色のブレード。樹木の枝から飛び立つ鳥たちの羽音。頬に滲む血の匂い。 「ち、シット」  スラング混じりに強がってはみたものの、今の殺意に満ちた男の一撃で私の腰はすっかり抜けていた。ぬかるみで泥だらけになるのも構わず、私は男に尻を向けたまま這いつくばって地面を掻く。中指で眼鏡のフレームを押し上げつつ振り返ると、男は背後で薪割りでもするかのごとく鈍く光るピッケルを再び大きく振り上げていた。もちろん標的は私の脳天だ。 「まったく。随分と(せわ)しないこと」  いよいよ追い詰められた私は、木の幹を背にして座り込む。ピッケルの柄を握りしめた男の瞳に色は無い。蝋人形のように無機質な表情の奥にあるのは、ただ私に対する悪意だけだ。 「堪らないわね、実際」  皮肉を込めて口の端を上げた瞬間、男はピッケルを勢いよく振り下ろす。  だが鋭角に尖った刃の先端が私の眉間に突き刺さろうとした寸前、藪から飛び出してきた人影が男に体当たりする。 「このおっ!」  いかにも重たそうなこん棒を力任せにフルスイングしたのは、或麻(あるま)だった。不意をつかれて体勢を崩した男のこめかみに、こん棒が直撃する。木片が粉々に砕け散るほどの勢いで殴られた男は、首をがくりと垂れて膝をつく。 「死ねっ!」  或麻は制服の短いスカートからピンク色の下着が顕わになるのも構わずに、男の顔面を思い切り蹴り上げる。  奇襲は見事に成功だった。頭部への連続攻撃に首を奇妙な方向に曲げた男は、枯葉にまみれながら力なく山の斜面を転がり落ちていく。
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