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「子桃、ちょっと待ってて」
祭り客たちがざわめく中、或麻が倒れた男の元へと駆け寄る。そして周りに居た若衆たちを押し退けると、息が出来ず苦しんでいる男の首元に指をあてがう。
「ぐ……がはっ!」
何とか気道を確保できたのか、男はうずくまったまま何度も咳き込む。
唖然とする若衆たちを余所に小走りに戻ってきた或麻が、二人の立ち去った方を見渡す。
「早く探さないと。まさかこんな直接的に管狐を操るなんて」
「或麻……今の、どうやって?」
「話はあと。とにかく今は衛藤由宇を止めないと」
浴衣姿のまま或麻が駆け出す。
提灯の焚かれた参道を手分けして二人を探すが、人混みに紛れてその姿は見つからなかった。
「もし神社を出たとしたら……まずいわね」
落ち合った神指神社の入口の鳥居の前で、或麻はいつになく真剣な表情で告げる。
「まずいって……どういうこと?」
「彼女にはもう残された道が無い。呪いを掛けるたびに追い込まれてるのは、彼女の方なの」
「でも古明地くんが一緒に居たら……」
「だから余計にヤバいんだって。彼自身は気付いてなくても、管狐たちは間違いなく自分たちの力を管主に委ねようとする。けど、もし彼がそれを拒むようなことがあれば……」
「あれば……どうなるって言うの!?」
肩を掴む私から顔をそむけ、或麻は口籠りながら言う。
「……喰われる。呪い返しってやつよ」
「喰わ……れる?」
「そう。人を呪わば穴二つ、って言うでしょ。何の見返りもなく怪異が人間の言うことを聞くはずがない。彼らには彼らなりの道理が必要なの」
「そ、んな……」
神指山から吹き降ろしてきた風が、青褪めた私の頬を嘲笑うかのように擦っていく。重苦しい静寂が、宵闇とともに辺りを覆い始めていた。
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