エピソード5《最終章》 紅咒楼

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 神指の外れまで来た時、或麻が急に立ち止まる。 「或麻……?」 「焦げ臭いわ」  足を止めて見渡すと、千年杉の近くの家から白い煙が立ち上っているのが見えた。そこはこの間、或麻と見張った古明地杜人の実家だった。 「あそこは空き家なんじゃ……」 「中に誰か居るってこと。それはきっと……」  最後まで告げずに、或麻が駆け出す。私にも分かっていた。あの家の中に居るのが、古明地杜人と衛藤由宇だということに。  灰色の煙が立ち込める中、或麻が有無を言わさず垣根を蹴破る。生い茂った草を掻き分けて庭へと出ると、外れた雨戸の隙間から家の中に広がる赤い炎が見えた。 「火が……!」  二人がかりで雨戸をこじ開けた瞬間、バックファイアのごとき火炎が庭にまで吹き出す。雨戸を盾にしながら覗き込むと、そこには燃え盛る家の中で倒れている古明地杜人と衛藤由宇の姿が見えた。 「或麻、中にっ!」 「だから……言わんこっちゃないのに!」  炎の間隙を縫った私と或麻は、縁側から建物の中に飛び込む。二人を助けること以外、何も考えられなかった。  二人に駆け寄った或麻が、急いで呼吸を確認する。 「まだ息があるわ! 早く外に!」  二人を引きずるように外に出ようとするが、障子や柱に燃え移った火焔が行く手を塞ぐ。尋常でない速さで家中に広がっていく赤い炎が、為す術もなく私たちを取り囲んでいく。 「あ、或麻……」 「く……」  まるで私たちを嘲笑うかのように、火柱がうねりを上げながら目の前に立ち上っていく。  その時、或麻に抱えられていた衛藤由宇が、弱々しく口を開く。 「管狐たちが……怒ってる。由宇が彼らを利用したから……。だから怪火を吐いて、全てを燃え尽くそうと……」 「喋れるんなら、ウチに掴まって!」 「杜人……杜人……」  意識のない古明地杜人の方へと、涙を溜めた衛藤由宇が手を伸ばす。 「ごめんなさい……杜人。ごめんなさい……」  だがその間も、猛々しく荒れ狂う炎はあらゆる物を覆い尽くし、飲み込んでいく。
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